大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和57年(特わ)999号 判決

(一)

本店所在地 東京都武蔵野市吉祥寺本町一丁目三三番一号

有限会社志磨商事

(右代表者代表取締役内堀シマ)

(二)

本籍 東京都三鷹市牟礼一丁目一、三九三番地

住居

同市牟礼一丁目五番二七号

会社役員

内堀シマ

大正一五年一〇月一七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官神宮寿雄出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

1  被告人有限会社志磨商事を罰金一、六〇〇万円に、被告人内堀シマを懲役一年にそれぞれ処する。

2  被告人内堀シマに対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人有限会社志磨商事(以下「被告会社」という。)は、本店を頭書所在地(当初の本店所在地は東京都三鷹市牟礼一丁目五番二七号であったが、昭和五六年七月一四日に頭書所在地に変更した。)に置き、飯食業、不動産賃貸業、バー・クラブ・キャバレー業等を目的とする資本金一〇〇万円の有限会社であり、被告人内堀シマは被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人内堀は、被告会社の業務に関し法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  同五三年二月一日から同五四年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億三、〇四一万三、八五五円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年三月三〇日、東京都武蔵野市吉祥寺本町三丁目二七番一号所在の所轄武蔵野税務署において、同税務署長に対し、その所得が三八万〇、九〇二円の欠損で納付すべき法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五七年押第九三二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額五、一三〇万二、七〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

第二  同五四年二月一日から同五五年一月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二、四七五万三、三六三円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同年三月三一日、前記武蔵野税務署において、同税務署長に対し、その所得金額と納付すべき法人税額がともに零である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額九〇二万七、八〇〇円(別紙(三)税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全般につき

一  被告人の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書二通

一  市来政光及び内堀芳江の検察官に対する各供述調書

一  東京法務局武蔵野出張所登記官作成の登記簿謄本

判示各事実ごとに過少申告の事実及び別紙(一)、(二)修正損益計算書の公表金額につき

一  押収してある昭和五三年二月一日から同五四年一月三一日まで、及び同五四年二月一日から同五五年一月三一日までの各事業年度分の確定申告書二袋(昭和五七年押第九三二号の1、2)

判示各事実ごとに別紙(一)、(二)修正損益計算書中の各当期増減金額欄記載の内容につき

一  収税官吏作成の売上調査書(右修正損益計算書(一)、(二)の勘定科目中各〈1〉。以下調査書はいずれも収税官吏の作成したもの)

一  ゲーム簿外売上調査書(同(一)、(二)の各〈1〉)

一  委託料収入否認調査書(同(一)の〈2〉)

一  仙台店舗簿外たな卸調査書(同(一)、(二)の各〈4〉、同(一)の〈7〉)

一  営業経費総括調査書(同(一)の〈5〉、〈6〉、〈8〉ないし〈22〉、〈26〉、〈29〉、〈31〉ないし〈35〉。同(二)の〈5〉、〈6〉、〈8〉ないし〈17〉、〈19〉ないし〈23〉、〈26〉、〈27〉、〈29〉ないし〈35〉、〈39〉)

一  小森勇三郎に払った歩合給料(簿外)調査書(同(一)の〈7〉)

一  簿外調査視察費調査書(同(一)、(二)の各〈32〉)

一  ゲーム簿外経費調査書(同(一)、(二)の各〈33〉)

一  事業税認定損調査書(同(一)、(二)の各〈35〉)

一  受取利息調査書(同(一)、(二)の各〈36〉)

一  雑収入調査書(同(一)、(二)の各〈39〉)

一  雑収入否認調査書(同(一)、(二)の各〈39〉)

一  仙台クラブ香港売却損益調査書(同(一)の〈44〉)

一  仙台宇宙飛行店売却損益調査書(同(一)の〈45〉)

一  備品除却損調査書(同(二)の〈46〉)

一  武蔵野税務署長作成の証明書(同(二)の〈47〉)

(法令の適用)

一  罰条

(一)  被告会社

いずれも昭和五六年法律第五四号による改正前の法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

(二)  被告人内堀

いずれも行為時において右改正前の法人税法一五九条一項、裁判時において改正後の法人税法一五九条一項(刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑による)

二  刑種の選択

被告人内堀につき、いずれも懲役刑選択

三  併合罪の処理

(一)  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

(二)  被告人内堀

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人内堀につき、刑法二五条一項

(量刑の事情)

被告会社は、昭和四六年二月二五日被告人内堀が個人経営していたバー及び喫茶店の営業をそのまま引継いで設立された会社であり、当初は赤字経営であったが、同被告人は昭和五〇年一〇月ころ知人の勧めもあってバー「サントリーハウス」として営業していた店を改装していわゆるピンクサロンを開業したところ、予想外の売上となり繁盛したため店舗をふやしていったが、被告人内堀はそのころから新規開店の資金などに利用する目的で右売上金を除外し裏資金を蓄積するようになったもので、一時右売上除外の事実が発覚することをおそれて中止したものの、東京のほか仙台において開店した店の爆発的な売上状況をみて再び判示のとおり売上を除外するなどしたうえ赤字申告あるいは零申告をして脱税するに至ったもとで、そのほ脱額も二事業年度分で総額六、〇〇〇万円余の高額に上る。また、被告会社は青色申告の承認を受けていたが、被告人内堀は被告会社の経理を担当していた市來政光に積極的に指示して売上金の一部を除外した虚偽の帳簿を作成させるなどして簿外資金を捻出しこれを架空名義の預金にしていたものであり、しかも右市來から再三にわたり右のような脱税工作は止めるよう進言されたにも拘らずこれを無視して犯行を継続したものであって、犯情悪質であり、被告人らの各風俗営業等取締法違反の前科等から看取される法軽視の態度も非難されて然るべきである。

しかしながら、他方において、被告会社の業績が向上して利益を計上できるようになったのは、前記のとおりピンクサロンを開店するようになってからであるが、昭和五三年一月期の決算内容は、修正申告による実際所得額で一、五七〇万円余と必ずしも高額ではなかったのであるから、被告会社の本格的脱税はまさに本件昭和五四年一月期以降に行われたと認められるところ、被告人内堀は、本件昭和五五年一月期事業年度の中途である同五四年一一月一五日以降は、その動機はどうであれ、仙台の店舗分については売上を除外することなく、そのすべてを公表するに至ったこと、そして被告人は同年五月に査察調査を受けるや、その当初から一貫して本件犯行を素直に認め、当公判廷においても今後再び犯行に及ばない旨を誓約しているなど反省の態度が認められること、本件両事業年度分を含む三事業年度分について修正申告したうえ法人税の一部を納付し、未納付金についても今後納付することを約束していること、被告人内堀の実兄が同被告人の身を案じ指導方を約束していること、被告人らは今まで前記前科のほかに格別刑事責任を問われたことがないこと等被告人らに有利な事情も存するので、これらの情状をも総合考慮し、被告人内堀については今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当であると認め、主文各掲記の刑を量定した。

(求刑 被告会社罰金二、〇〇〇万円、被告人内堀懲役一年)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 羽渕清司 裁判官 園部秀穂)

別紙(一) 修正損益計算書

有限会社志磨商事

自 昭和53年2月1日

至 昭和54年1月31日

〈省略〉

別紙(二) 修正損益計算書

有限会社志磨商事

自 昭和54年2月1日

至 昭和55年1月31日

〈省略〉

別紙(三) 税額計算書

有限会社志磨商事

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例